【苔図鑑】ケカガミゴケ

苔図鑑

ケカガミゴケは主に樹幹に生える苔です。
市街地の街路樹でもよく見かける、普通に生えている苔の1種です。
資料によってはコモチイトゴケと記載されていることもあります。

この苔は枝が細長く伸び、糸のように垂れ下がるのが特徴的です。
時には樹幹を全て覆い隠してしまうほど群生することもあります。

ケカガミゴケはコモチイトゴケと同種なのか別種なのかで長い間議論が続いていました。
私が見つけた限りでは、別種として扱うことで決着がついているようです。

分類蘚類 ハイゴケ目 コモチイトゴケ科
育成場所樹幹
日当たり日向~半日陰 (苔の育つ明るさを参照)
湿度乾燥~中間
育ち方樹幹を覆うように育つ

ケカガミゴケの特徴

ケカガミゴケは市街地でもよく見かける苔の1つで、街路樹などを覆うように生えていることが多いです。
湿っている場合には緑色、乾燥すると白っぽい見た目になります。

2022/01/15撮影

枝は5mm前後ほどの長さで糸状に伸びます。
ただし、写真で確認しただけなので実際にはもっと長いかもしれません。
写真で見える範囲では分枝している様子は観察できません。

2022/03/30撮影

※ 苔のサイズはミニフィギュアのサイズとの比較から推定しています。
ミニフィギュアの大きさについてはこちらの記事を参照してください。

葉の大きさは1mm以下、少なくともタツノオトシゴちゃんの口吻(1mm)よりは小さいと言えます。
葉の形は披針形で、葉先が細長く、また写真を確認する限り中肋は見当たりません。
図鑑などを参照すると「2本で短い」「非常に短いかまたは欠く」などの記述があります。
どちらにせよ顕微鏡などを用いなければ中肋は見えないようです。

2022/03/30撮影

乾燥すると葉は茎に強く密着します。
色も白っぽい見た目になりますね。

2022/03/30撮影

ケカガミゴケは葉の間に糸のような無性芽を付けるのらしいのですが、私が観察している限りでは発見できませんでした。
そもそもの葉の大きさも1mm以下なので、小さすぎて見つけられていないだけかもしれません。

ケカガミゴケの見分け方

ケカガミゴケと似た環境で育つ苔としては、ヒナノハイゴケやコゴメゴケなどがいます。

しばしばヒナノハイゴケと混生していることがありますが、この子は枝が糸状には伸びないため区別は難しくないと思います。
また、ヒナノハイゴケの葉の形は卵型なのでルーペやマクロレンズなどで覗き込めば違いが分かると思います。

コゴメゴケは場合によっては糸状の枝を伸ばすことがあるため、区別が難しいことがあります。
その場合には葉を観察しましょう。
ケカガミゴケの葉は披針形ですが、コゴメゴケの葉は卵型であり透明尖が長く伸びる点が異なります。
ただ、葉を観察してもどちらとも区別しにくい葉を付けている子もいます。

ケカガミゴケの入手方法

私の知る限りではケカガミゴケは通販などでの取り扱いは見かけません。

入手する場合には自身で採取することになります。
ただし、苔の採取には地権者などの許可が必要な点に注意してください。

採取のための許可を取るにはこちらの記事も参考にしてください。

ケカガミゴケの育て方

ケカガミゴケは一般的にはコケリウムなどに採用されることはなく、育成は難しいと思われます。

一般論として、苔を育てるためには育成環境に似た環境を用意することが大切です。

ケカガミゴケの場合は明るく風通しの良い環境で育てると良さそうです。

ケカガミゴケの雑学

ケカガミゴケとコモチイトゴケは同種か別種か

ケカガミゴケは長らく、コモチイトゴケと同種か別種か、という議論が続いていたそうです。
私が調べた限りでは、現在は別種というのが定説であると認識しています。

これらの苔の違いとしては”葉の曲がり具合が異なる”とされています。
具体的にはケカガミゴケは葉先が直線的、コモチイトゴケは葉先の曲がる、という違いがあるそうです。

これらの議論の経緯は 秋山, 2019 にて紹介されていますので、気になる方は参照してみてください。

環境指標植物としてのケカガミゴケ

ケカガミゴケ(古い文献ではコモチイトゴケ)は「最も大気汚染に強い苔」という紹介がされていることがありました。
一次資料を漁ってみると次のようなことを紹介している資料がありました。

  • 東京都において一番分布範囲が広い
  • 高尾山(山間部)から東部(都市部)に向かって苔の分布を調べると、最も東部でも育成している

おそらくはこのあたりを根拠として「最も大気汚染に強い苔」として紹介されているのだろうと思いました。

都市部では苔の種類が少ないといった報告はいくつかあるのですが、その要因はこの数十年で変化しているようです。
高度経済成長期には窒素酸化物の濃度が問題となっていましたが、現在は窒素酸化物の濃度は改善されている一方で乾燥化が進んでいるそうです。

ケカガミゴケの写真

2022/04/09撮影
2022/04/09撮影
2022/03/30撮影

参考文献

■ ケカガミゴケとコモチイトゴケの分類の変遷について紹介している
秋山 2019 新・コケ百選 第20回 ナガハシゴケ科・コモチイトゴケ科(蘚類)その2.コモチイトゴケ科

■ 都内において樹木と着生蘚苔類の関係性をまとめた論文
菅・大橋 1992 東京都における樹木着生蘚苔類の分布状況

■ 「コモチイトゴケはサヤゴケより都市化に強いコケ」という一文がある
東京都環境科学研究所ニュース No. 24

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